ガンキリンとは

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ガンキリンとは

ガンキリン(gankyrin)とは、1998年に京都大学医学研究科教授の藤田潤が、同科助手の東辻宏明らと共にヒト肝細胞がんから発見した7個のアンキリンリピートからなる新規のがん遺伝子です。(1)(2)

当時の研究ではヒトの肝がん34症例すべてにガンキリンが高発現しており、ガンキリンはがんを抑制するRBタンパクの働きを阻害している可能性が示唆されました。

その後、ガンキリンはRBを含む複数のがん抑制タンパク質の分解を促進していることが分かり、ガンキリンの発現を抑制することで肝細胞がんの治療ができないか実験を行なった結果、シャーレ実験による軟寒天中でのがん細胞のコロニー形成を抑制することが示されました。さらに、中国のグループにより、ヌードマウスに移植したヒト肝がんに対する顕著な腫瘍抑制効果が示されました。(3)

実験用ヌードマウス
写真家:ArminKübelbeck、CC-BY-SAウィキメディア・コモンズ

藤田潤は以降もガンキリンががん抑制タンパク質p53の分解を促進することを発見し(4)、ガンキリン抑制によるがん治療法の開発を行ないます。またこれらの研究は、複数の特許取得へとつながります。

同時期には東京大学の横山茂之教授らが、ガンキリンとプロテアソームサブユニットとの複合体の立体構造を解明したことで新規抗がん治療薬の開発につながる成果を示しました。(5)

ガンキリンはこうして多くの研究者から注目されることになり、肝細胞がんに限らず大腸がんや食道がん、その他のがんでも、RBおよびp53を含む主要ながん抑制タンパク質の分解を促進することにより細胞のがん化を促進していることが発見されます。

ガンキリンは京都大学から世界へ

弊社の代表である藤田潤が長年の研究により発見、命名した「ガンキリン」は、数多くの研究によりほぼすべてのがん細胞で高発現しているタンパク質であり、がん細胞の悪性化に大きく関与していることで知られることとなりました。

藤田が発表した論文は世界中の研究者から驚嘆と関心を集め、今でも数多くの専門家がガンキリンについて新たな論文を発表し続けています。

ガンキリンがここまで注目されるようになった理由は何なのでしょうか。

がん細胞が大量に合成しているガンキリンとは

人間の細胞というのはタンパク質から出来ています。そして普通の細胞は分裂・増殖していくために必要なタンパク質を必要な分だけ作り出しています。

その仕組みはがん細胞も同じ、がんはがんにとって必要なタンパク質を作っています。それは人からしたら必要の無い、害となるタンパク質です。

その中の一つ、人に悪影響を及ぼすであろうタンパク質の一つが「ガンキリン」です。

ガンキリンは正常細胞でも少量作られており、プロテアソームと呼ばれるタンパク質の処理場が正しく組み立てられるのを助ける為に働いていますが、必要以上に合成されることで細胞のがん化を抑えているがん抑制遺伝子の働きを阻害してしまいます。

少量では正しい行動をしていたガンキリンが、大量合成されることで暴走し、がんを抑制するタンパク質であるp53やRBを殺してしまうのです。

ガンキリンはがん抑制タンパク質の殺し屋として働く

本来であればがんを抑制する働きを持つp53遺伝子などは、細胞ががん化しそうになると暴走を抑えるために細胞を老化させたりアポトーシス(細胞死)させる機能が働きます。

しかしがん細胞が大量生成したガンキリンは、がん細胞で製造されているMDM2というタンパク質と手を組んでp53と結合し、タンパク質の分解を行なっているプロテアソームに連れていってしまいます。

がん抑制タンパク質にはp53の他にもRBという有名なタンパク質がありますが、ガンキリンはCDK4というタンパク質と手を組んで結合してリン酸化したのち、プロテアソームに連れて行って分解してしまいます。

この他にもがん抑制タンパク質は数多く存在していますが、現在確認ができている中では多くのがん抑制タンパク質を阻害しているので、もしかしたらヒトの細胞に存在している主要ながん抑制タンパク質を全て阻害している可能性も考えられます。

ガンキリンが死滅させている腫瘍抑制因子

ガンキリンの働き

ガンキリンは複数の主要な腫瘍抑制因子を死滅させる

上記イラストはガンキリンが働きを促進したり、阻害したり消滅させることに相互作用していると判明した代表的なタンパク質(黄色ががん抑制タンパク質)です。

ガンキリンの働きによってがん抑制遺伝子が正常に作用しなくなり、がんを抑制する機能の大半が失われてしまいます。

ほぼ全てのがんで高発現しているガンキリンの特殊性

がん細胞の表面にあるタンパク質や遺伝子をターゲットとする分子標的薬は、肺がんに対してなら肺がんで作られることが多いタンパク質を標的として治療を行ないますが、同じ肺がんでも60%の患者さんでは標的となるタンパク質を作っているのに残りの40%は作っていないということもあります。

その場合、60%の患者さんのがん細胞には劇的に効果が出たとしても残り40%は効果がないことになります。

ガンキリンが特殊なのは腫瘍によっては「ほぼすべての患者さんのがんで高発現している」ということが判明したからです。

ガンキリンの高発現が認められた例

  • 肝臓がんの組織34例中、34例(100%)
  • 胃がんの組織124例中、113例(91.1%)
  • 大腸がんの組織178例中、171例(96%)
  • 口腔がんの組織32例中、32例(100%)
  • 食道がんの組織30例中、30例(100%)
  • 前立腺がんの組織31例中、30例(96%)
  • 胆管がんの組織85例中、80例(94.1%)

これらの他の種類のがんでもガンキリンはほとんどの患者さんのがん組織で高頻度に発現していることが多くの研究論文で発表されています。

これだけ高頻度に高発現しているタンパク質は恐らく他にないでしょう。

ガンキリンは通常細胞ではほとんど発現していない

ほぼすべてのがんで高発現をしているのならば、体内に存在するガンキリンの量を調べればがんが存在してるかどうか分かるかも知れません。

ガンキリンが標的として優れている点の一つに、通常細胞ではほとんど発現していないという特徴があります。

体内にがんが存在しているかどうかを測る指標として腫瘍マーカーがありますが、がん細胞が大量に生成している特有の物質を調べることで、その数値が正常よりも多ければがんが発生している可能性が高いことを示します。

しかしこれまでの腫瘍マーカーは正常な細胞でも生成している物質が含まれているので、ちょっとした体調の変化やストレス、食生活などによっても大きく左右されてしまいます。

その為、がんの可能性が高い又は明らかにがんであると判断できる段階で、既にある程度までがんは進行してしまっている可能性が高いのです。

その点、ガンキリンは正常な細胞ではほぼ発現していないため、腫瘍マーカーとしても優れた標的として考えられます。

さらにガンキリンは初期段階のがん細胞からも発現しているので、これまでよりも早い段階でがんの発見が出来るかもしれません。がん治療は早期発見と早期治療が大切なので、ガンキリンを活用できれば将来的にはこれまで小さ過ぎて見つけられなかったがんの早期発見が可能になるかも知れないのです。

ガンキリンの生成を抑えれば理論上ほぼすべてのがんに効く治療薬ができる

これまでに紹介したがんを抑制するタンパク質p53は、がん患者さんの半数ではがん細胞中で欠損しており、残りの半数ではガンキリンやMDM2に阻害されています。

その為、ガンキリンを阻害する治療薬が作られて、p53がん抑制遺伝子を導入することができれば、理論上ほぼすべてのがんに効く治療薬となるかも知れません。

株式会社ガンキルファーマは世界で初めてガンキリンをターゲットとした遺伝子薬の開発を行なう製薬会社として、ガンキリンに関する最新の情報を発信しながらがん医療業界に革新を起こしていきます。

参考文献

1.
Reduced stability of retinoblastoma protein by gankyrin, an oncogenic ankyrin-repeat protein overexpressed in hepatomas.
Higashitsuji H, Itoh K, Nagao T, Dawson S, Nonoguchi K, Kido T, Mayer RJ, Arii S, Fujita J.
Nat Med. 2000 Jan;6(1):96-9.

2.
The crystal structure of gankyrin, an oncoprotein found in complexes with cyclin-dependent kinase 4, a 19 S proteasomal ATPase regulator, and the tumor suppressors Rb and p53.
Krzywda S, Brzozowski AM, Higashitsuji H, Fujita J, Welchman R, Dawson S, Mayer RJ, Wilkinson AJ.
J Biol Chem. 2004 Jan 9;279(2):1541-5.

3.
Use of adenovirus-delivered siRNA to target oncoprotein p28GANK in hepatocellular carcinoma.
Li H, Fu X, Chen Y, Hong Y, Tan Y, Cao H, Wu M, Wang H.
Gastroenterology. 2005 Jun;128(7):2029-41.

4.
The oncoprotein gankyrin binds to MDM2/HDM2, enhancing ubiquitylation and degradation of p53.
Higashitsuji H, Higashitsuji H, Itoh K, Sakurai T, Nagao T, Sumitomo Y, Masuda T, Dawson S, Shimada Y, Mayer RJ, Fujita J.
Cancer Cell. 2005 Jul;8(1):75-87.

5.
Structure of the oncoprotein gankyrin in complex with S6 ATPase of the 26S proteasome.
Nakamura Y, Nakano K, Umehara T, Kimura M, Hayashizaki Y, Tanaka A, Horikoshi M, Padmanabhan B, Yokoyama S.
Structure. 2007 Feb;15(2):179-89.